旅実行編7 クルマお遍路旅 実行四日目 6月11日(火)午後、天気は晴れ。 二十番鶴林寺の様子と二十一番太龍寺に向かう途中、道に迷うお話しをします。
さあここから続く二つの札所、すなわち二十番の鶴林寺(かくりんじ)と、その次の二十一番太龍寺(たいりゅうじ)は、徳島県最後にして最大の難所です。十二番焼山時(しょうざんじ)に並ぶ第2の「遍路ころがし」と呼ばれています。
いずれも標高600mの山岳信仰霊場です。
第二十番札所 鶴林寺(かくりんじ)
ランチを食べた立江町の「キッチンゑみ」を出発して、ずっと走ってきた運転しやすい県道から右へそれると、舗装こそされているものの、いきなり細い林道になります。少し道なりに行くと、いよいよ激しい葛折りが始まりました。
車にすれ違いをさせるための“待避所”もほとんどありません。しかもめちゃくちゃ急傾斜です。
幸い、往きの上りの山道では、対向車に出会うこともなく、山門近くの駐車場までたどり着くことができました。
これまでの経験から、ここから歩きでまだまだ山を登らなければならないことはわかっています。少しずつですが、山寺のお参りにも慣れてきた気がします。
時刻は12時50分。
ただ怖れていたよりは、駐車場から近いところに山門があり、少しほっとします。
二十番鶴林寺(かくりんじ)、山号を「霊鷲山(りょうじゅうせん)」というお寺です。ここの山門は、これまでの札所の中で、最も大きく荘厳に感じました。一礼してくぐるときには圧倒されます。背の高い木々に囲まれて異様な威風を放つゾクゾクするような門でした。
感激していると、やはり出ました。延々と上に伸びる石段!
望むところです。一段一段踏みしめながら登ります。登り切ると、巨木に囲まれた荘厳な境内が広がります。
二重ではなく三重の塔になっている多宝塔は、これまでのお寺の中では初めて見た気がします。
当たり前といえば当たり前なのですが、この鶴林寺を初めとする山岳札所の多くに、高野山霊場を彷彿とさせる雰囲気を感じざるを得ません。




↑ 徳島県の中でも指折りの山岳寺 威厳に満ちた佇まいに圧倒される
天気はいよいよ晴れてきて、気温も結構上がってきました。
大きな木々の間から青空が覗きます。森の緑が一層キラキラ輝いて見えます。非常に気持ちの良い時間を過ごすことができました。ゆっくりお参りし、二十番鶴林寺の駐車場を出たのは午後1時20分頃だったと思います。
「どうぞ対向車さん来ませんように!」と祈りながら、細い急峻な下り坂を下っていきます。
しかしながら祈りもむなしく、デカいのが下から来ちゃいました。
見るとバスです。しかも、あの大阪集団お遍路さんの例のバス!
この人たちとは『つくづく縁があるものだ・・・』と、半分嬉しくも少々複雑な思いがしました。向こうさんも同じようなことを思っていることでしょう。
ツアーですからお客さんを乗せて入って来ざるを得ないとはいえ、この細い林道にバスが入ってくるのですから、すごいものだなと思いました。
幸いにも、バスとの出会い頭の自分のSOLIOが走ってきた下り坂はたまたま直線で、すぐ後ろには待避スペースがありました。自分が少し後ろに下がれば、幅員がちょっとだけ広がっています。
私は迷いなくギアをバックに入れて、自分の車を左に寄せながら、そこまで下がりました。
バスの運転手も今や、私の茶色メタリックの横浜ナンバーソリオはよく知っています。挨拶のクラクションと右手を上げながら、ソリオの右サイドミラーから多分10センチと離れていなかったと思いますが、すれすれのところを躊躇なく綺麗にすり抜けていきました。手慣れたものです。感心しました。
帰りの下り坂の対向車両は、このバス1台で、他にはありませんでした。
第二十一番札所 太龍寺(たいりゅうじ)
そして山道を下ること20分、広々とした那珂川に出ます。しばらくはこの那珂川に沿って県道19号線を下流(東)へ走り、そして太龍寺山の北側斜面の山道を再び登ることになります。那珂川沿いの県道19号は、とても整備された立派な県道で走りやすかったです。悠々と流れる那珂川をはじめ、広々とした川沿いの風景はとても清々しく、気持ちがよかったです。



↑ 那珂川にでると急に視界がひらける… 左が下流、右が上流
ただ、しかし、ここで私は、勉強(情報)不足による致命的な道の間違いを犯してしまいます。
二十番鶴林寺と二十一番太龍寺は、直線距離では6〜7キロ程度しか離れていません。ただし、鶴林寺から標高差500m下の那珂川まで下り、そして今度はまた太龍寺山山頂まで500m以上の標高差を登るという高低差の激しい移動となります。これが第二の「遍路ころがし」と言われる所以です。
(ここからは後で知った話です・・)20年以上前になるそうですが、那珂川上流部ちょうど太龍寺山の南側にあたる那珂川町の河川敷に「鷲の里」という道の駅と、そこを本当の駅として太龍寺山山頂まで西日本でもっとも長い(3km弱の)ロープウェイが、実は建設されていました。
道の駅「鷲の里」から太龍寺山山頂(太龍寺)までのロープウエイの所要時間はたったの10分です。
そうなのです。今や、歩きお遍路の方たちも、車お遍路の人たちも、ほとんどの参拝客(お遍路さんを含む)は、このロープウェイを使って南側の斜面で山頂の二十一番太龍寺(たいりゅうじ)まで向かうのです。
「鷲の里ロープウェイ駅」は、那珂川の上流部、太龍寺山の南側にありますので、鶴林寺から那珂川に下ったところの県道19号線は、本当は右折して上流へ向かうのが正しいルートでした。右折して上流へ向かってさえいれば、2キロ程度で「鷲の里ロープウェイ駅」に着いていたのでした。
ルートの詳細を頭に入れておくかどうかはともかく、「少なくともロープウエイが設置されていることさえ分かっていれば」、カーナビの目的地を「鷲の里ロープウェイ駅」にすることができたはずです。
ところが、わたしは単純に「二十一番太龍寺」そのものを“目的地”にセットしてしまったために、カーナビは素直にこの北側の斜面を登る山道を選択し、那珂川へ出たところの県道19号を下流へと左折してしまったというわけです。


↑ 左:よく見ればGoogle Mapにもロープウエイは表示されてる 右:間違って入りこみ、徐々に怪しくなっていく道
那珂川を左折し、気持ちよく下流に向かってクルマを飛ばしているときの私には、この事実は知るよしもありません。
こっちの(間違えた)ルートは、徐々に大変な道へと変貌していきます。結果的にこちらは、車での移動距離だけで15キロ以上あり、とんでもない林道を散々登らされた挙句、駐車場と言えるか疑わしい「行き止まりの広場」から、さらに1キロ以上”徒歩”で山を登らなければなりませんでした。^^;)
相当な傾斜の山道を徒歩で1キロ以上登るというのは、下手すると30分,40分あるいはそれ以上の時間がかかる・・・言わば”登山”になってしまいます。・・・
何も知らず那珂川を下流に向かって左折してしまった私は、やがて気持ちのいい県道を離れて、太龍寺山北側山麓に向かって怪しい道へ入っていくことになります。
交通量はなく幅員も狭まっていきます。ナビには沿っているのですけれども、どうも様子がおかしいなと思っていると「この先ロープウェイには行けません。」的な看板が一度ならず何度も連続で出てきます。
そのうち「右折→”大“竜”寺” 登山道入口」という看板があります。しかも「県立自然公園」(?)
『 ”大”の字も”竜”の字も微妙に違うし、”県立自然公園”とかも聞いてないし、そもそも散々出てくる「ロープウエイ」って一体なんなんだよ(?) 』
なんだかすべてが釈然としません。(~_~;)

↑ 釈然としない看板が不安をそそる
「車両進入禁止」とは出ていませんが、やはり「この先ロープウェイはありません」とまた言われました。
カーナビは平然と「ここを右折して入れ」と指示します。何となく解せない気持ちと、ちょっと嫌な予感を、グッと胸にしまって、その登山道へ入っていきます。
その道には同向も対向も、なにしろ一台の車もいません。細い山道をSOLIO1台で登り始めました。
『果たして本当に車が入っていい道なんだろうか?』と思うほどのただの山道です。道の細さ、勾配のきつさ、つづら折りの激しさは、鶴林寺へ向かう道の比ではありません。
待避所も無いので対向車が来たら、2台とも立ち往生間違いなしです。
※『ロープウェイができてからは皆さん南側のロープウェイの方に行きますから、ここ20年以上、明らかに使用頻度の落ちた朽ちかけた林道になってしまっているのでしょうね。』


↑ どんどんヤバくなっていく道
葛折りを登っていくと、1回のハンドル操作では曲がりきれないようなU字カーブもありました。見るからに古い看板があり、「この先、曲がり切ることができないので、傾斜に気をつけて一度切り返しをしてから曲がって行ってください!」みたいなことが、ご丁寧に書かれているところさえありました。
・・・
これまでの札所巡りで経験した中では最も難儀な山道でしたが、やっとの思いでお寺の駐車場というか、(本当に何て言えばいいのでしょうか?・・・さっき言った通り、)ただの“行き止まり”みたいなところでしたが、そこへ到着します。
時刻は午後2時半をとうに超えていました。
不思議なことに・・・、1台だけ、普通の白い乗用車が停まっていました。決してSUV的なオフロードを走るようなタイプの車ではなく、ホントにごく普通の乗用車なのです。

↑ 駐車場というよりは行き止まりの広場 一台だけ白い普通の乗用車が、、、
私がソリオを少し離して停め、エンジンを切っていると、、、白髪のジャケット姿の老人が近づいてきて、
「よく、こちらを登って来られましたね・・・」と声をかけてきました。
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